体系的にCDAを学びたい方向けの『批判的談話分析入門―クリティカル・ディスコース・アナリシスの方法』

批判的談話分析について、体系的に説明している日本語の書籍といったらこれ、『批判的談話分析入門―クリティカル・ディスコース・アナリシスの方法』。包括的にまとめてくれているので、主要な研究者がどのような考えや方法論のもと、研究しているかを比較しながら学ぶことができる本です。

基本データと目次

基本データ
編著:ルート・ヴァダック、ミヒャエル・マイヤー
監訳:野呂佳代子
出版:三元社
発行年:2010年11月15日
原著名:Methods of Critical Discourse Analusis
原著発行年:2001年11月1日
目次
日本語版への序文
第1章 批判的談話分析とは何か?―CDAの歴史、重要概念と展望
第2章 理論、方法論、そして政治の間で―CDAアプローチを位置づける
第3章 談話と知―批判的談話分析および装置の分析、方法論的側面
第4章 談話の歴史的アプローチ
第5章 学際的なCDA―多様性を求めて
第6章 社会科学研究におけるひとつの方法論としての批判的談話分析
第7章 行為とテクスト―社会的行為におけるテクストの位置と媒介された談話の分析と社会的行為の問題を統合的に考える
監訳者あとがき

『批判的談話分析入門』の概要

この本は2001年に出版された原著本の『Methods of Critical Discourse Analysis』を2010年に日本語翻訳として出版したものです。

2009年には第二版が、2015年には第三版がすでに出版されています。

第一版では、ロン・スコロンのMediated Discourse Analysis(MDA)が取り上げられていますが、2008年に死去してしまったことからか、第二版からコーパス言語学を批判的談話分析に応用する章が代わりに取り上げられているようです。

また、第三版ではヴィジュアルとメディア分析に関する章が追加されています。

内容も少し違うようです。

ここからは各章の執筆者やサブタイトルといったやや詳細な基本データと簡単な紹介です。

第1章 批判的談話分析とは何か?―CDAの歴史、重要概念と展望

基本データ
著者:ルート・ヴァダック
訳者:山下仁
サブタイトル

まず初めに:「研究仲間」ができるまで
批判的言語学(CL)と批判的談話分析(CDA)の歴史
「批判」、「イデオロギー」そして「権力」という概念について
今後の課題と展望

第1章では、CDAが登場した簡単な歴史や、CDAの特徴や問題点などを簡単にまとめてくれています。批判的談話分析の「批判」は批判理論から文字って批判言語学が登場し、批判的談話分析につながったことや、各主要な研究者がどのような関心や理論のもとにCDAを用いているかが分かります。

第2章 理論、方法論、そして政治の間で―CDAアプローチを位置づける

基本データ
執筆:ミヒャエル・マイヤー
訳者:高木佐知子
サブタイトル
CDAを他のアプローチから区別しているもの
CDAの方法論
理論的基盤と目的
データ収集における方法論
運用化と分析における方法論
質の評価のための基準
結論:どっちつかずのCDA

第2章では、CDAの理論や方法論的な側面をやや詳しめに紹介しています。それぞれの立場を比較しながら論じてくれているので、第1章で論じたことを確認しながら読み進めることができます。

第三版では、第1章と第2章の話がまとめて紹介されていました。

第3章 談話と知―批判的談話分析および装置の分析、方法論的側面

基本データ
執筆:ジークフリート・イェーガー
訳者:山下仁
サブタイトル

談話理論
談話という概念
談話、知、権力、社会、主体
談話から装置へ
装置―要素の相互行為
意識が現実と結びつく
談話分析と装置分析の方法
談話の構造
談話分析の完全性の問題について
談話分析の実践のためのささやかな道具箱
調査すべき「対象」の選別、方法論の根拠づけ、そして短絡化と単純化を避けるための研究実践上の提案
方法
材料(データ)の処理
装置分析の最初の考察
行為における知
見えるもの・対象化されたものにおける知

批判的談話分析の談話は英語ではディスコース(談話/言説)であり、ただの談話というよりはフーコー的な言説概念とも通じている側面があります。そのため、第3章ではフーコーのディスコース概念をなぞりながら、その問題点を指摘しつつ、前半では理論的な側面を中心に、後半では具体的な分析をどのようにして行うかといった話が中心にされています。

哲学的な内容に近いので、この本の中では一番理解しにくい章でした。フーコーの基本的な考え方を理解していないと何を言っているのかつかみづらいかと思います。

フーコーの入門書等を参考にしつつ読むといいかもしれません。

ちなみに執筆者のイェーガーはデュースブルク学派に属している方のようです。

第4章 談話の歴史的アプローチ

基本データ
執筆:ルート・ヴァダック
訳者:森本都代
サブタイトル
アプローチの定義
理論的背景
「談話」という概念
談話の歴史的アプローチの歴史
研究プログラム
政治的、差別的談話
差別談話の分析―1992年から1993年の「オーストリア第一主義」というFPO(オーストリア自由党)請願についてのケーススタディ
分析のカテゴリ
差別に対する賛成と反対の議論
「オーストリア第一主義」の請願
結論と手続き:まとめ
さらに知りたい人のための文献

第4章では、ルート・ヴァダックの歴史的な談話アプローチ法(Discourse-Histlical Approach:DHA)が紹介されています。

問題指向型のアプローチを推奨し、複雑な談話という概念を間テクスト性間談話性(談話はトピックやジャンル、テキストといった間を行き来しながら行為とも結びつく)というふうに捉えて、テクストそのものだけでなく歴史的・社会的な観点といったコンテクストを抽出しながら、分析を精密化し繰り返していくことを提唱しています。

途中に示される図が分かりやすく、どうしても複雑になってしまうCDAのアプローチを歴史的な観点から捉え直していくのに参考にしやすい方法論の一つかと思います。

実際に、その理論を用いた分析(オーストリア第一主義)も掲載されています。

第5章 学際的なCDA―多様性を求めて

基本データ
執筆:テウン・ヴァン・デイク
訳者:服部圭子
サブタイトル
多様性を支持する
CDAとは何か?
談話-認知-社会の三角形
どの談話構造を我々は分析すべきか?
CDAのレベルと次元―例をもとに
主題:意味論上のマクロ構造
ローカルな意味
微妙な「形式的」構造の関与性
コンテクストモデル
事象モデル
社会的認知
談話と社会
結び
さらに知りたい人のための文献

第5章では、社会的認知の側面を重要視するテウン・A・ヴァン・デイクがメンタルモデル事象モデルといった概念を中心に、実際にマイクロソフトへの訴訟を取り下げる要求をする文章を取り上げながら解説してくれています。

ヴァン・デイクはCritical Discourse Analysisではなく、Critical Discouse Studies(CDS)という名称の方が、一定の方法論に依拠しないCDAにとってはふさわしい名前だと主張していて、2010年代から徐々にCDSという名称が使われてきたことなどから、第三版では本のタイトルや冒頭でもCDSという記述が使われています。

第6章 社会科学研究におけるひとつの方法論としての批判的談話分析

基本データ
執筆:ノーマン・フェアクラフ
訳者:高木佐知子
サブタイトル
CDAの理論的立場:社会的実践の契機としての談話
CDAのための分析枠組み
事例:「グローバル経済」における変化の表彰
記号論的側面を持った社会問題に焦点を当てる
取り組むべき問題に対する障害を固定する
社会的秩序(実践のネットワーク)はある意味において問題を必要とするのか?
障害の克服可能な方法を見出す
分析を批判的に見直す
さらに知りたい人のための文献
付録1 情報誘導型経済の構築
付録2 首相による序文

第6章では、ノーマン・フェアクラフのCDA理論が紹介されています。フェアクラフはことばを社会的実践の表れとして捉え、さまざまなことばの特徴(ジャンル、スタイル、トピック、にアイデンティティや社会的・文化的特徴 etc.)と複雑な社会的な関係のもとにできる談話の秩序を分析しています。

特に、言語と社会の関係を重視するマイケル・ハリデーの選択体系機能言語学に影響を受けて、ことばの社会的な要素を分析することに焦点を当てています。

第7章 行為とテクスト―社会的行為におけるテクストの位置と媒介された談話の分析と社会的行為の問題を統合的に考える

基本データ
執筆:ロン・スコロン
訳者:義永美央子
サブタイトル
批判的談話分析(CDA)と媒介された談話の分析(MDA)
新資本主義、新自由主義、そして一杯のコーヒー:媒介された行為
媒介された行為
関与の場
媒介手段
実践と媒介手段
実践の集合体
方法の目的とストラテジー
関与の場における媒介された行為:中心となる焦点
行為
実践
媒介手段
実践の集合体
実践の共同体
方法論的前提
応用しやすい分野と留意点
謝辞
さらに知りたい人のための文献

第二版以降では、ロン・スコロンの死去もあってか取り下げられてしまったのが第7章です。

MDAでは、談話はあくまで社会的行為を成り立たせるコンテクストを形成する一要素であり、「行為」に焦点を当てた分析がされています。そうした社会的行為はなにかしらの「媒介手段」によってなされていると捉え、Mediated Discourse Analysisという名前が付けられています。

そのため、参与観察といったエスノグラフィー的な調査を主に行っているようです。

第一版のみの内容ですが、「複雑なものを複雑なものとして」理解しようとするCDAの考え方を拡張していった時に、こうした「行為」に焦点を当てる調査法があってもおかしくないと思いました。

まとめ

日本語訳にされているのは第一版のみなので、いきなり英語から入るのをためらう場合は『批判的談話分析入門』を一通り読んでから最新の第三版を読むと理解がスムーズに進むかと思います。

特に第1章と第2章では簡潔にCDAの諸理論がまとめられているので、一定の方法論が確立されていないCDAを理解していくのに役立つ文章です。

この本で概略的に理解をしながら、自分の問題関心に沿って、個々の研究者のアプローチ方法を参照し、論文執筆に向けて勉強していくのがいいのではないかと思います

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