【2018年版】批判的談話研究を卒論に使いたい人におすすめの研究法と書籍リスト

批判的談話研究(Critical Discourse Studies:CDS)は多様な分野の知見を取り入れて分析を行う学際分野の学問だ。

それゆえに、卒論を書くに当たっても幅広い知見をある程度は体系的に理解している必要がある。

が、CDSを分析に使っている人も限られているため、僕自身は大部分を独学に頼ってこれまで学ばざるを得なかった。

といっても、たいていの学生が書く論文は独学にならざるを得ないことが多いだろうし、院に進もうとそれはあまり変わらない。

というわけで、一通りざっくばらんと乱読した中で得た知見をまとめよう。

目次

 CDSはじめの一歩―「批判」と「対話」

CDSに関する初学者向けの情報は以下の記事にてまとめてあるのでぜひチェックしてみてほしい。

CDSにおいては研究者の「当事者性」が大事にされている。そのため、「批判」が前景化されやすく、もう一つ重要な「対話」が受け手の解釈によってはかき消されてしまうこともある

その点に関して、論文上では僕が見たところほとんど言及されていないが、CDSを研究に用いる人の中ではそうした逆説的な抑圧を生み出してしまうことへの危惧を持っている人とも出会ってきた。他にも、社会言語科学会発行の学会誌第10巻第2号に宮原浩二郎(2008)『「自分の言葉で語る」こと―言葉の感性的次元をめぐって―』や同著者の『ことばの臨床社会学』や『社会美学への招待―感性による社会探求』で語られるように、ことばは理性的機能だけでなく、共感覚をもたらすような感性的機能も持っている。

建設的な議論をし、より良きあり方を考えるためにも、こうした観点を視野に入れておくのは重要なことだろう。

おすすめ研究法

問題意識を研ぎ澄ませ、論文の型をおさえる

正直、CDSを卒論に使おうなどという人はマイノリティだと思うし、それなりに尖った人だとも思う。

「どうしても批判的に読み解かないと気が済まない!」という強い思いなしにCDSを選ぼうという気にならないのではないだろうか。

個人的にはそうした批判的まなざしはすごく大事にした方がいいと思う。

が、一方で研究をするとなると、あまりにも自分の「批判的意識」に引っ張られてしまうのは分析の精確さを阻害してしまうこともあるだろう。

論文を書くとなると、何よりも「自分にとっての問題意識はなんなのか?」ということに徹底的に向き合う必要があるはずだ

以下の記事にもぜひ目を通してほしい。

参考 論文構想攻略法!後で後悔しないためにも「問題意識」を徹底的に磨き上げよッ!入門学術メディア Share Study

また、レポートと論文がどのように違うのかということも抑えておこう。

参考 大学生が初めて論文を書く前に最低限チェックしておきたいレポートと論文の違い入門学術メディア Share Study
\入門学術メディア Share Study/

「教養を問い、視点を養うために学び合いの文化をつくる」ことを理念に掲げて運営しているサイト。キャッチフレーズは「あそび、ゆらぎ、むすぶ。」複数のメンバーで記事を更新するなどして運営を行っている。

資料収集

「気になってしょうがない!」というディスコースを一つ取り上げるとしよう。僕の場合は最初に「自己責任」、後に「文系学部廃止論争」を取り上げた。

問題意識を洗練化させていくのも大事なのは言うまでもないのだが、まずは手を動かしてみないと分からないこともある。

新聞のデータベースを使って年代ごとや事件ごとに特定のワードをピックアップしていく、気になる行政文書や企業の広告などに焦点を当てて、情報を整理していくようにしよう。

それら資料が集まったら、印刷をしてひたすら読み込みつつ、どのように思ったかを書き込んでいくと、徐々に自分の考えも整理されつつ、論文として切り込む糸口も見つかるはずだ。

調査・分析となると一般的なことしか書けないのだが、細かなことは適宜指導教官の先生に相談するようにしよう。自分が抱いているモヤモヤを話すだけでもいい。

自分で調べる、書く、話す中で徐々に問題意識を研ぎ澄ませていこう。

一番楽なのは、モデルケースとなるような論文を見つけることだ

いきなり自分で分析のフレームワークを作り上げるのは大変なことと思う。実際、僕も二つ書いた論文はとある論文の調査・分析方法を参考にして行った。

論文の書き方

論文の書き方はいろいろあると思うが、とにかく最後にまとめ上げたものが首尾一貫した問題意識と方法論に分析となっていればいい

好き勝手に言いたいことを言うのが批判的分析なのではないことを肝に命じよう。

おそらく、それなりにまとまった文量を書き上げるには最低でも2・3週間はかかってしまうことと思う。

集中してもそれくらいかかってしまうものだから、最低限の期限を設けつつ、

  1. 研究計画(~6月)
  2. 一次調査(6月~7月)
  3. 簡易分析(8月)
  4. 二次調査(9~10月)
  5. 分析(10月~11月)
  6. 論文執筆(12月)
と言った具合に意識しておくといいかもしれない。

 おすすめ書籍

まずは3つか4つの書籍をピックアップした。どうしても、読んだ本に偏りがあるため、1年毎を目安にバージョンアップさせていこうと思う。

  • CDS
  • 哲学/理論
  • 談話分析
  • 語用論/コミュニケーション論
  • 社会学/メディア論

CDS

『批判的談話研究とは何か』(2018)

まず最初に手に取るべき一冊がこれだ。CDSという学問が誕生した経緯や主要な論者による論考がまとまっている。ちなみに、学問を学ぶ上で学説史の理解があると、どういう立ち位置を「新しさ」を見出すかを論じやすくなるし、理解もなく方法論を用いるのは誤った論考に陥りやすくなるかた気をつけよう。

『正しさへの問い 批判的社会科学の試み』(2001)

特に野呂香代子さんによる『第1章 クリティカル・ディスコース・アナリシス』を読もう。著者がCDSを行う上での葛藤がよく現れており、かつまとまった整理がされている。他の論考も社会言語科学のさまざまな分野からの批判的論考が並んでいるので余裕があれば読んでみよう。

『ディスコースを分析する 社会研究のためのテクスト分析』(2012)

CDSの中でも弁証法的アプローチを用いるイギリスのランカスター学派に属するフェアクラフによる著作。かなり細かく理論と分析についてまとまっているが、ちょっと読みにくい。が、これ一冊、精読するとちょっとCDSが分かって分析できる”気”になるくらいにはまとまっている1)知ることと理解することと分析できることは各々別のレベルであるはずという意味。。おすすめ。

『ディスコース分析の実践 メディアが作る「現実」を明らかにする』(2016)

上記の著作の姉妹書で、日本人研究者が実際に分析した実例を挙げてくれている。一緒に読むと、より理解が進むだろう2)訳書がFaircloughの著作に偏っているのが少し多様性に欠けるなと思ってる。

哲学/理論

『社会科学の考え方―認識論、リサーチ・デザイン、手法』(2017)

めちゃくちゃおすすめなので、真面目に社会科学を勉強したい人は一冊持っておくと良い。日本の著書では無視されがちな、存在論/認識論を取り上げ、それを踏まえて方法論が紹介されている。最後に「第8章 言説分析」があるので、要確認。「言説分析」を5つに場合分けしてまとめられており、CDS、とりわけフェアクラフの分析概念の紹介もしてくれている。

『フランクフルト学派 ホルクハイマー、アドルノから21世紀の「批判理論」へ』(2014)

CDSはフランクフルト学派と呼ばれる批判理論というものを理論的前提として持っていると言える。必ずしも読む必要はないが、「批判」の意味がどのような成り立ちで付けられているのか抑えておくためにも読むと良い。

『フーコー入門』(1996)

ディスコース(日本語では「談話/言説」)は、フランスの哲学者M・フーコーの「ディスクール」が元となっていることば。フーコー的なディスクールを引き継いだCDSもあるので、抑えておくと良いだろうただし、3)なかなかフーコーは難しい。というか、哲学に簡単なものなどないのだが…

『現代政治理論』(2012)

CDSでは、研究者の政治的・社会的立ち位置を示すことを良しとするし、政治的なディスコースを批判的に分析する場合が多い。そもそも「政治」とはなんなのか?政治哲学者アーレントやハーバーマスの「公共圏」はどう違うのか?などなど。最低限、抑えておくとそれなりに理論武装できるだろう。

談話分析

『会話分析・ディスコース分析 ことばの織りなす世界を読み解く』(2007)

社会学から誕生した人と人の会話の中で生まれる「社会秩序」を探求する会話分析という分野があるが、談話分析との違いがパッと見てわかりにくい。そこで、バランスよく両者の学説史や批判点をまとめて紹介してくれるのがこの書籍。心理学分野から派生したディスコース心理学も取り上げられ、ナラティブとの関連の入り口にもなるだろう。

『談話言語学 日本語のディスコースを創造する構成・レトリック・ストラテジーの研究』

「談話から出発し談話に到達する言語学という意味を込めて、談話言語学を試みたい。」とし、「あくまで日本語のと直結して分析・観察・考察」することを志向している。重厚な一冊で、談話分析を行っていく上で参考になるだろう。

語用論/コミュニケーション論

『批判的社会語用論 社会と文化の言語』(2005)

「語用論の社会学的転回」として、語用論を「言語使用に関わる一般的、認知的、社会的、文化的視点」とし、「ミクロ語用論/マクロ語用論」とに分け、重厚に解説する入門書。語用論を研究する上でフェアクラフをはじめとしたランカスター学派を支持している。

『コミュニケーション論のまなざし』(2012)

単なるコミュニケーション論というよりも、社会文化記号論的な観点かた言語学を中心にしつつも、いかにことばが社会文化と密接に結びついているか、かつ諸学問といかに関連しているかをメタ的に解説している入門書。第1章では「そもそも学問とはなんなのか?」という観点から語ってくれるので、徐々にステップアップして俯瞰的に「コミュニケーションにおける”視点”」を切り口に知る良い入り口になる。

『コミュニケーション研究 第4版 社会の中のメディア』

マス・コミュニケーションといった社会学よりなメディア論的な観点から、多岐にわたる分野やコミュニケーションモデルなどをまとめて紹介してくれる入門書。メディアを分析する際に、分析する観点の切り口をまとまって知るのに便利。

社会学/メディア論

『社会学入門 <多元化する時代>をどう捉えるか』

社会学の入門書は数あれど、「そもそもどうして”社会”なるものが生まれたのか」ということから「社会学」が成り立った近代について詳しく紹介してくれている入門書。昨今は、近代からポスト近代への流れが強まっていることもある。そうした論考を知るためにも、近代の理解を深める足がかりとして読むと良いだろう。

『メディア文化論 メディアを学ぶ人の15話』

「Ⅰ 方法としてのメディア」では、メディアがどのように学問的に語られてきたのかを整理してくれ、「Ⅱ 歴史としてのメディア」では新聞や電話、映画やラジオといった個別具体的なメディアの変遷を紹介してくれる。メディア環境が技術進歩の中で激変している昨今を考えると、こうした文脈を多少なりとも抑えておくといいだろう。

『デジタルウィズダムの時代へ 若者とデジタルメディアのエンゲージメント』

「若者はなぜ・どのようにメディアに関わるのか」という問いを元に長年の調査をまとめた一冊。理論的モデルとして紹介される「複雑性のコミュニケーションモデル」はこれからのデジタル時代をコミュニケーションという観点から考えていくに当たってのマクロな視野を与えてくれるだろう。

おわりに

「研究法」「おすすめ書籍」で紹介してきたことは、「研究を始める前にネット検索した中で最低限出会っておくと良かっただろうなぁ」と2・3年前の僕に向けて書いたものである。

もちろん、まだまだ勉強の蓄積、研究の経験は未熟だという自覚はあるのだが、少なくとも学部生向けにはそれなりに紹介できるだろうと思い、まとめることとした。

何かしら参考になれば幸いである。

これからCDSを研究する皆さん、一緒に「無知の知」を胸に学びを深め、時に自身の声をしっかりと表明し、また誰かの<声>にも耳をすませていきましょう。

注釈・参考文献   [ + ]

1. 知ることと理解することと分析できることは各々別のレベルであるはずという意味。
2. 訳書がFaircloughの著作に偏っているのが少し多様性に欠けるなと思ってる。
3. なかなかフーコーは難しい。というか、哲学に簡単なものなどないのだが…

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