批判的談話研究(Critical Discourse Studies:CDS)は多様な分野の知見を取り入れて分析を行う学際分野の学問だ。
それゆえに、卒論を書くに当たっても幅広い知見をある程度は体系的に理解している必要がある。
が、CDSを分析に使っている人も限られているため、僕自身は大部分を独学に頼ってこれまで学ばざるを得なかった。
といっても、たいていの学生が書く論文は独学にならざるを得ないことが多いだろうし、院に進もうとそれはあまり変わらない。
というわけで、一通りざっくばらんと乱読した中で得た知見をまとめよう。
CDSはじめの一歩―「批判」と「対話」
CDSに関する初学者向けの情報は以下の記事にてまとめてあるのでぜひチェックしてみてほしい。
CDSにおいては研究者の「当事者性」が大事にされている。そのため、「批判」が前景化されやすく、もう一つ重要な「対話」が受け手の解釈によってはかき消されてしまうこともある。
その点に関して、論文上では僕が見たところほとんど言及されていないが、CDSを研究に用いる人の中ではそうした逆説的な抑圧を生み出してしまうことへの危惧を持っている人とも出会ってきた。他にも、社会言語科学会発行の学会誌第10巻第2号に宮原浩二郎(2008)『「自分の言葉で語る」こと―言葉の感性的次元をめぐって―』や同著者の『ことばの臨床社会学』や『社会美学への招待―感性による社会探求』で語られるように、ことばは理性的機能だけでなく、共感覚をもたらすような感性的機能も持っている。
建設的な議論をし、より良きあり方を考えるためにも、こうした観点を視野に入れておくのは重要なことだろう。
おすすめ研究法
問題意識を研ぎ澄ませ、論文の型をおさえる
正直、CDSを卒論に使おうなどという人はマイノリティだと思うし、それなりに尖った人だとも思う。
「どうしても批判的に読み解かないと気が済まない!」という強い思いなしにCDSを選ぼうという気にならないのではないだろうか。
個人的にはそうした批判的まなざしはすごく大事にした方がいいと思う。
が、一方で研究をするとなると、あまりにも自分の「批判的意識」に引っ張られてしまうのは分析の精確さを阻害してしまうこともあるだろう。
論文を書くとなると、何よりも「自分にとっての問題意識はなんなのか?」ということに徹底的に向き合う必要があるはずだ。
以下の記事にもぜひ目を通してほしい。
参考 論文構想攻略法!後で後悔しないためにも「問題意識」を徹底的に磨き上げよッ!入門学術メディア Share Studyまた、レポートと論文がどのように違うのかということも抑えておこう。
参考 大学生が初めて論文を書く前に最低限チェックしておきたいレポートと論文の違い入門学術メディア Share Study
「教養を問い、視点を養うために学び合いの文化をつくる」ことを理念に掲げて運営しているサイト。キャッチフレーズは「あそび、ゆらぎ、むすぶ。」複数のメンバーで記事を更新するなどして運営を行っている。
資料収集
「気になってしょうがない!」というディスコースを一つ取り上げるとしよう。僕の場合は最初に「自己責任」、後に「文系学部廃止論争」を取り上げた。
問題意識を洗練化させていくのも大事なのは言うまでもないのだが、まずは手を動かしてみないと分からないこともある。
新聞のデータベースを使って年代ごとや事件ごとに特定のワードをピックアップしていく、気になる行政文書や企業の広告などに焦点を当てて、情報を整理していくようにしよう。
それら資料が集まったら、印刷をしてひたすら読み込みつつ、どのように思ったかを書き込んでいくと、徐々に自分の考えも整理されつつ、論文として切り込む糸口も見つかるはずだ。
調査・分析となると一般的なことしか書けないのだが、細かなことは適宜指導教官の先生に相談するようにしよう。自分が抱いているモヤモヤを話すだけでもいい。
自分で調べる、書く、話す中で徐々に問題意識を研ぎ澄ませていこう。
一番楽なのは、モデルケースとなるような論文を見つけることだ。
いきなり自分で分析のフレームワークを作り上げるのは大変なことと思う。実際、僕も二つ書いた論文はとある論文の調査・分析方法を参考にして行った。
論文の書き方
論文の書き方はいろいろあると思うが、とにかく最後にまとめ上げたものが首尾一貫した問題意識と方法論に分析となっていればいい。
好き勝手に言いたいことを言うのが批判的分析なのではないことを肝に命じよう。
おそらく、それなりにまとまった文量を書き上げるには最低でも2・3週間はかかってしまうことと思う。
集中してもそれくらいかかってしまうものだから、最低限の期限を設けつつ、
- 研究計画(~6月)
- 一次調査(6月~7月)
- 簡易分析(8月)
- 二次調査(9~10月)
- 分析(10月~11月)
- 論文執筆(12月)
おすすめ書籍
まずは3つか4つの書籍をピックアップした。どうしても、読んだ本に偏りがあるため、1年毎を目安にバージョンアップさせていこうと思う。
- CDS
- 哲学/理論
- 談話分析
- 語用論/コミュニケーション論
- 社会学/メディア論
CDS
『批判的談話研究とは何か』(2018)
まず最初に手に取るべき一冊がこれだ。CDSという学問が誕生した経緯や主要な論者による論考がまとまっている。ちなみに、学問を学ぶ上で学説史の理解があると、どういう立ち位置を「新しさ」を見出すかを論じやすくなるし、理解もなく方法論を用いるのは誤った論考に陥りやすくなるかた気をつけよう。
『正しさへの問い 批判的社会科学の試み』(2001)
『ディスコースを分析する 社会研究のためのテクスト分析』(2012)
『ディスコース分析の実践 メディアが作る「現実」を明らかにする』(2016)
哲学/理論
『社会科学の考え方―認識論、リサーチ・デザイン、手法』(2017)
『フランクフルト学派 ホルクハイマー、アドルノから21世紀の「批判理論」へ』(2014)
『フーコー入門』(1996)
『現代政治理論』(2012)
談話分析
『会話分析・ディスコース分析 ことばの織りなす世界を読み解く』(2007)
『談話言語学 日本語のディスコースを創造する構成・レトリック・ストラテジーの研究』
語用論/コミュニケーション論
『批判的社会語用論 社会と文化の言語』(2005)
『コミュニケーション論のまなざし』(2012)
『コミュニケーション研究 第4版 社会の中のメディア』
社会学/メディア論
『社会学入門 <多元化する時代>をどう捉えるか』
『メディア文化論 メディアを学ぶ人の15話』
『デジタルウィズダムの時代へ 若者とデジタルメディアのエンゲージメント』
おわりに
「研究法」「おすすめ書籍」で紹介してきたことは、「研究を始める前にネット検索した中で最低限出会っておくと良かっただろうなぁ」と2・3年前の僕に向けて書いたものである。
もちろん、まだまだ勉強の蓄積、研究の経験は未熟だという自覚はあるのだが、少なくとも学部生向けにはそれなりに紹介できるだろうと思い、まとめることとした。
何かしら参考になれば幸いである。
これからCDSを研究する皆さん、一緒に「無知の知」を胸に学びを深め、時に自身の声をしっかりと表明し、また誰かの<声>にも耳をすませていきましょう。