人類学的メディア研究への接続―『ハイブリッド・エスノグラフィー NC研究の質的方法と実践』

木村忠正(2018)『ハイブリッド・エスノグラフィー NC研究の質的方法と実践』は人類学的にメディア研究、とりわけネットワークコミュニケーションを研究していくにあたっての指針を示してくれる。人類学的な理論や方法論、これまでの研究背景を洗いつつ、従来の「空間性」や「時間性」を越えて展開されるネットワークコミュニケーションを人類学的スタンスを掲げつつ研究していくにあたっての示唆として「ハイブリッド・エスノグラフィ」が提唱される。

ネット上で展開されるコミュニケーションのスピードはすさまじい。2019年の段階において、正直、社会言語学や言語人類学の分野において、日進月歩で開発されるテクノロジーとそれに伴ったコミュニケーションの研究は追いついていないように感じる(19年3月執筆現在)。特に、エスノグラフィ的視点を伴った研究は一部の取り組みを除いて、その複雑さからか主な研究対象にはされにくい。

今後、メディアディスコースを対象に分析を行っていきたいと考える筆者にはとても参考になる書籍だったので簡単に概要をまとめて紹介する。

基本データと目次

基本データ著者:木村忠正
出版:新曜社
発行年:2018年11月1日

目次はじめに
第Ⅰ部 社会科学の認識論

はじめに
Ⅰ ネットワークコミュニケーション/エスノグラフィー/ハイブリッド・エスノグラフィー

第1章 ネットワークコミュニケーション研究

1-1 「ネットワークコミュニケーション」

1-2 本書が対象とする「ネットワークコミュニケーション研究」

1-3 技術の社会的形成―――本書における技術と社会との関係の捉え方

第2章 ネットワークコミュニケーションの特性

2-1 5つの軸

2-2 関与者数

2-3 クローン増殖性と記憶・再生・複製・伝播様式

2-4 時間軸・空間軸における離散性・隣接性

2-5 「物理的存在」(オフラインの存在)/「論理的存在」(オンラインの存在)と社会的手掛かり

2-6 秩序形成への欲求とメディアイデオロギーの形成

第3章 NC研究におけるエスノグラフィーアプローチの展開

3-1 エスノグラフィー・質的研究への高まる関心

3-2 人類学におけるNC研究

3-3 サイバーエスノグラフィー研究

第4章 「ヴァーチュアル・エスノグラフィー」と「デジタル人類学」のあいだ

4-1 「エスノグラフィー」の危機

4-2 「ヴァーチュアル・エスノグラフィー」

4-3 「ヴァーチュアル・エスノグラフィー」と「デジタル人類学」のあいだ

4-4 エスノグラフィー革新の必要性

第5章 デジタル世界における対称性の拡張知識産出様式としてのエスノグラフィー革新の方向性

5-1 デジタルメソッド

5-2 知識産出様式における〈対称性(シンメトリー)〉の拡張

5-3 デジタル空間における「定量/定性」の対称性と「フィールド」概念の変容

5-3-1 デジタル空間における「定量/定性」の対称性

5-3-2 SNA・ネットワーク科学とエスノグラフィーとの接合「定性/定量」対称性方法論として

5-3-3 「干渉型参与観察」特権化の瓦解

5-4 「ビジネス/学術」の対称性

5-4-1 CUDOSからPLACE

5-4-2 ネットワークに埋め込まれる人々の活動とIT企業

5-4-3 「ビジネスエスノグラフィー」と「デジタル人類学」

第6章 ハイブリッド・エスノグラフィーの方法論的基礎

6-1 リサーチプロセスから規定する「エスノグラフィー」

6-2 「アブダクション(仮説生成的推論)」―――エスノグラフィーの中核的力

6-3 「ヒューリスティクス(発見法)」―――HEの中核的力


第7章 ハイブリッド・エスノグラフィーの具体的遂行と課題

7-1 エスノグラフィー調査の具体的遂行過程

7-2 つながりとしての「フィールド」とサイバーエスノグラフィー・アプローチ3類型

7-2-1 つながりとしての「フィールド」

7-2-2 焦点となる〈つながり〉からみたサイバーエスノグラフィー・アプローチ3類型

7-2-3 論理的存在/物理的存在の分離がもたらす方法論的課題

7-3 調査倫理

7-3-1 ケアの原則(principle of care)

7-3-2 調査研究許諾の確認と説明研究機関およびvenue毎の必要性 

7-3-3 関係形成のダイナミズム

7-4 フィールドワークにおけるデータ収集法

7-4-1 観察、インタビュー、保存記録

7-4-2 インタビューの多元性

7-5 質的/量的をいかに組み合わせるかHEにおけるMMの具体的展開法

7-6 HEが展開される空間

7-6-1 NC研究の多層性・多元性

7-6-2 NC研究の重層的空間

Ⅱ ハイブリッド・エスノグラフィーの実践

第8章 VAP(Virtual Anthropology Project)ソーシャルメディア利用の日米デジタルネイティブ比較

8-1 VAP(Virtual Anthropology Project)とデジタルネイティブ研究

8-1-1 VAP(Virtual Anthropology Project)

8-1-2 「デジタルネイティブ」論と「デジタルネイティブ」概念の脆弱性

8-1-3 日本社会において「デジタルネイティブ」研究の持つ意味

8-2 HEとしてのVAPリサーチデザイン―――3つの観点

8-3 デジタル現在(digital present)―――観察・アーカイブ・インタビューの融合

8-3-1 デジタル現在(digital present)――HEにおける「民族誌的現在」の革新

8-3-2 VAPにおけるデジタル現在(digital present)

8-4 TML(Translational Multi―Level)デザイン―――インフォーマント集団をより大きな社会文化集団に定位する方法

8-4-1 アンケート調査との並行・継起デザイン

8-4-2 VAP―Iでの実践

8-4-3 TML(Translational Multi―level)デザイン――定性調査の弱点克服とウェブ調査のバイアス

8-5 VAP―V(北米調査)―――社会文化間比較に拡張したTMLデザイン

8-5-1 VAP―Vのリサーチデザイン

8-5-2 国際比較、異文化間比較研究

8-5-3 VAP―Vにおける日米ウェブ調査モニター・インフォーマントの偏り

8-6 TMLデザインによる日米比較

8-6-1 インターネット利用全般

8-6-2 ケータイメール・SMS利用の規範意識、気遣い

8-6-3 ブログ・BBS・SNS情報発信・交流・自己開示

8-7 SNS利用と社会的ネットワーク空間の構造

8-7-1 日本社会におけるSNSの普及せめぎ合う3つの「つながり原理」

8-7-2 「世間」の支配力

8-7-3 対人関係空間の構造

8-7-4 SNSの考古学

第9章 ワイヤレス・デバイドユビキタス社会の到来と新たな情報格差

9-0 本章の位置づけ

9-1 データ通信カードと「モバイルデバイド」本章の主題

9-2 デジタルデバイド研究

9-3 データ通信カードの普及

9-4 グループインタビューによる定性的調査

9-5 ウェブアンケートによる定量的調査

9-6 「魚の目」の重要性

第10章 ネット世論の構造

10-0 本研究の問題意識と主題

10-1 日本社会における「ネット世論」の形成回路とYahoo!ニュースの位相

10-1-1 ニュース産出流通回路の変革

10-1-2 「ネット世論」=「拡散」「炎上」の図式を越える必要

10-2 本研究データの概要

10-3 投稿者識別IDクラスタリング

10-4 投稿者ID―IPアドレス、親コメント―子コメントとの関係

10-5 非マイノリティポリティクス「ヤフコメ」に通底する社会心理

10-5-1 PRSに現れるネット世論の関心

10-5-2 投稿者マジョリティに現れるネット世論の関心

10-5-3 非マイノリティポリティクスと道徳基盤理論

106 ポスト・リベラルの社会デザイン

木村(2018)『ハイブリッド・エスノグラフィー NC研究の質的方法と実践』

『ハイブリッド・エスノグラフィー NC研究の質的方法と実践』の概要

広大なネット社会を見極める方法
協力者の生活の「現場」に参加・観察し記述する。これが人類学の代表的な参与観察研究法です。しかし、デジタル機器やインターネットに媒介される現代のコミュニケーションは現場に参与・観察できず、研究法は変革を求められています。そこで著者が提唱するのが、定性・定量の両面から迫り、多時的・多所的なデータ、干渉型・非干渉型の組合せという複数の意味をもつハイブリッド・エスノグラフィーです。本書ではその可能性が、机上の理論ではなく、日米デジタルネイティブの比較調査、モバイル機器利用から見るデジタルデバイド調査、日本最大のニュースサイトのコメントというビッグデータを用いたオンラインエスノグラフィーなどの着実な知見をもたらす実践で明らかになります。今後のネットワークコミュニケーション研究の道標となる分析としても、ビジネス界でニーズの高まる研究法、エスノグラフィーの大胆な革新としても読むことができる著者の集大成です。

新曜社HP

本書は全7章からなる第一部と全3章からなる第二部の構成となっている。第一部「ネットワークコミュニケーション/エスノグラフィー/ハイブリッド・エスノグラフィー」は、主に人類学的観点からのネットワークコミュニケーション研究(NC研究)に関する理論・方法論の位置づけ整理がされている。第二部「ハイブリッド・エスノグラフィの実践」として第一部の議論を土台に分析した事例となっている。

従来、人類学的研究として代表される研究手法が研究者自身が調査地に入り込み、そこで暮らす人びとの生活(地域・民族・組織 etc.)をともにする中で観察する、参与観察と呼ばれる手法である。総称して「フィールドワーク」と呼ばれる研究であり、「文化を書く批判(表象の危機)」と呼ばれる(ポストモダン人類学)、主に西洋的・近代的価値観を携えた者による「他者の発見」として調査対象者たちを位置づけたという展開がされてきた。

人類学、特に文化人類学分野においては未開の民族をはじめとした人びとの生活を記述、分析することで近代社会を問い返し、自文化中心主義的な価値観をはじめとしたものからの「開放」が目的の一部として共有されてきた側面がある。しかし、本書では近代的発展が押し進まれ、今やあらゆるところに張り巡らされているデジタルメディア環境におけるネットワークコミュニケーションを「人類学的」研究の対象として分析するための議論が展開されている点で特異である。

以下、「はじめに」の最初の段落である。

 本書は、ネットワークコミュニケーションに対して質的研究、エスノグラフィーの観点からアプローチする方法論を展開するものであり、次の3つの関心領域が重なり合う地点における筆者の調査研究活動に立脚している。
(1)ネットワークコミュニケーション研究手法(CMC [Computer-Mediated Communication, コンピュータ媒介コミュニケーション] 研究)とそこでの質的(エスノグラフィー)アプローチの果たす役割
(2)質的研究、エスノグラフィーに関する方法論的議論(他/多分野におけるエスノグラフィーへの関心の高まりと人類学における懐疑・模索)
(3)デジタルネットワーク拡大に伴う方法論的革新、とくに、<定性><定量>を対照的に扱い、複合的に調査、分析を行う方法論(これを本書は「ハイブリッドメソッド」と呼ぶ)の必要性

P1

「ハイブリッド」の指す意味

社会科学における「定性(質的)」「定量(量的)」といった方法論的アプローチをさす「ハイブリッド(混合)」だけではなく、さまざまな意味合いが含まれている。

  1. 定性と定量(質的と量的)
  2. 時間軸と空間軸(多時的と多所的)
  3. 干渉的と非干渉的

デジタル化が進む現代社会において膨大に蓄積、交わされているネットワークコミュニケーションを研究するにあたって、多元的かつ仮説生成・発見的に複雑なコミュニケーションの意味生成や解釈を織りなす文脈を読み解くために、「ハイブリッドエスノグラフィー」が有効だという。

 本書のいう「ハイブリッド」は、第一義的に、<定性>と<定量>とのハイブリッドである。だが、それだけに留まらない。デジタルデータは、エスノグラフィーをアナログ世界において不可欠であったフィールドワーク、参与観察の「同時性・同局性」から開放するとともに、ログデータにより調査協力者に干渉せず(非干渉的に)、観察することを可能にする。すなわち、本書は時間軸、空間軸において可塑的で、「多時的」「多所的」という意味においても「干渉型」(obtrusive)、「非干渉型」(unobtrusive)を組み合わせるという意味においても、「ハイブリッド」な方法としてエスノグラフィーを捉えることになる。
 しかし、<定量的>で、参与観察ではないエスノグラフィーがエスノグラフィーなのだろうか。本書は、デジタルデータがもたらす知識産出様式の変化に対応し、ネットワークコミュニケーションを対象としたエスノグラフィーはまさに、「ハイブリッド・エスノグラフィー」であると主張する。むしろ、同時・同所性を必然とする参与観察からの頸木から開放することにより、「エスノグラフィー」の中核的価値がより明確に現れる。それは、「フィールドワークにもとづき、可能な限り先入見・先験的枠組を排し、多元的事象を対象として、きめ細かく意味生成の文脈に即して掘り下げ、理解・解釈しようとする、仮説生成・発見的方法論」と規定することができる。
 デジタルデータが流通するネットワークコミュニケーションにおいて、「フィールド」は根底から変容する。したがって、「フィールドワーク」自体が、定性的、定量的、多時的、多所的、干渉的、非干渉的とハイブリッドに展開しうる。仮説検証ではなく、仮説生成的、発見的であるがゆえに、膨大なデジタルデータを定量的に構造化する作業と、個別の文脈(個々のネットワーク行動者とその行動)を参照し、意味生成の文脈に即して掘り下げ、理解・解釈する質的研究とを並立させ、複合させることが可能となる。

P3-4

「ネットワークコミュニケーション」の指す意味

文化人類学も社会学も19世紀において近代社会の形成とともに誕生した学問分野であるが、現在では情報学的展開とも呼ばれるように、デジタルネットワーク、オンライン環境、また機械学習・人工知能をはじめとした技術が日進月歩を遂げ、生活世界に浸透し、人びとの行為に影響を与えている。

このような状況の中で、Castell(2000)の議論を援用し、「ネットワーク社会」という語彙を用いている。これは、マクルーハンの初期メディア研究においてよく見られるように「技術決定論(技術により社会や組織に変化をもたらす)」ではなく、筆者は技術もあくまで社会的に意味づけられ用いられるとする「社会決定論」の立場を取ることと重なっている。

Castell, M.(2000)“The Rise of the network Society”, The Information Age, Vol, 1. 2nd ed., Blackwell

 コンピュータの中核的価値は情報のデジタル化にあり、本書を通して議論を重ねていくが、「デジタルであること(being digital)」(Negroponte 1996)は、調査研究を革新し、私たちの社会的現実認識、構成に大きな変容をもたらす源泉であることは疑う余地がない。しかし、90年代半ばからの情報ネットワークメディアの革新は、ヒトとヒト、ヒトとモノ/情報、モノ/情報とモノ/情報とのつながり方(ネットワーキング)にこそある。だからこそ、Castellは、「コンピュータ社会」、「デジタル社会」、「情報社会」よりもむしろ、「ネットワーク社会」という概念こそ適切だと主張した(Castell 2000)。

P14

 ネットワークは、私たちの社会に関する新たな社会形態学を構成し、ネットワーク化論理(networking logic)が広まることから、生産、経験、権力、文化が現実のプロセスにおいて作動する仕方、そしてその作動の結果が大きく姿を変える。社会組織のネットワーク化形態は、他の時代、空間においても存在はしてきたが、新たな情報技術パラダイムにより、ネットワーク化形態が、社会構造総体を通して拡がり行き渡るための物質的基盤が用意された。(中略)ネットワークに在るのか無いのか、それぞれのネットワークが他のネットワークと相対するダイナミクスが、私たちの社会においては、支配(優越)と変化が生じるきわめて重要な源泉となっている。私たちの社会は、(ネットワークという)社会的形態が社会的行為に優越することにより特徴づけられ、したがって、ネットワーク社会と呼ぶのが適切とも考えられるのである。

(Castell 2000; P500)

Negroponte, N.(1996)“Being digital”, Vintage.

CMS研究とネットワークコミュニケーション研究は同義で使われるが、CMC研究は「コンピュータ」に重点が置かれていることから、本書ではネットワークコミュニケーション研究と位置づけているという。

人類学的「エスノグラフィ」としての位置づけ

従来から行われてきた一定の調査地に長期間滞在する文化人類学的な研究で行われているエスノグラフィとは異なることから、ネットワークコミュニケーションを研究することを「エスノグラフィ」と言えるのかという論点に対して、筆者は以下のようにまとめる。

 エスノグラフィーにこれまで接点がなく、NC研究の観点から本書を手にした読者にとっては、捉えどころがないようにも感じられるのではないだろうか。

 この「捉えどころのなさ」こそ、エスノグラフィー自体の力の源泉だと本書は考えるが、従来の質的方法論において、その力は「フィールド(野)」、「参与観察」、「全体性」の力以上に十分に説明されてきたとは言い難い。だからこそ、エスノグラフィーという方法論は、部外者からみると「捉えどころがない」のである。この文脈において、NC研究は、「フィールド」、「参与観察」、「全体性」自体を、アナログ世界から解き放ち、知識産出のあり方そのものを革新することにより、改めてその力の源泉が何かを問い直し、より具体的に説明することを可能にする。

P67

ネットワークコミュニケーションは、「複製」ができ、「匿名」にもなれることや、フェイス・トゥ・フェイスではないことから文脈や意味の類推を行うための「社会的手がかり」が少ないといった特性がある。さらに、動的に絶えず流動しながら流される情報を追うことは難しい。しかし、コミュニケーションは単にオンライン上に表象されているだけでなく、実際に利用者が生活を送る中で生み出されているのであり、「対面、アナログメディア、デジタルメディアを問わず、社会的コミュニケーション空間がどのように構成されているかを探る必要があるが、量的研究だけでは困難」である[木村, 2018;P37]。

こうした前提のもと、多元的かつ仮説生成・発見的アプローチを行ってきたエスノグラフィ、さらにとりわけ人類学的なアイデンティティとして一部重視されてきた「全体性」の志向性を持った研究として、「ハイブリッド・エスノグラフィ」の必要性が説かれている。

第4章「「ヴァーチュアル・エスノグラフィー」と「デジタル人類学」のあいだ」にてエスノグラフィが「文化を書く批判(表象の危機)」に陥った経緯や、「ヴァーチャル・エスノグラフィ」「デジタル人類学」として議論されてきたことがまとめられている(割愛)。

ネットワークコミュニケーションの特性

デジタルメディアを介したコミュニケーションの特性としてBaym(2010)の7つの鍵概念をあげ、ネットワークコミュニケーションの特性を5つの軸に沿って筆者はまとめる。

Baym, N.(2010)“Personal Connections in the Digital Age”, Polity

  1. 双方向性(interractivity):発信者と受信者(social)、端末と操作者(technical)、テキストと受け手(textual)、それぞれの面での双方向性
  2. 時間軸構造(temporal sturucture):同期、非同期を基本とするメッセージのやりとりにおける時間軸
  3. 社会的手がかり(social cues):コミュニケーションの文脈、メッセージの意味、話者のアイデンティティなどを伝える言語的、非言語的手掛かり
  4. 保存(storage):記録、保存の容易さ
  5. 複製可能性(replicability):記録、保存の容易さ
  6. リーチ(reach):メッセージが届く範囲の拡張
  7. 移動性(mobility):メッセージをやりとりするための場所の制約が減少

↓ ↓ ↓

  1. 関与者数
  2. クローン増殖性と記憶・再生・複製・伝播様式
  3. 時間軸・空間軸における離散性・隣接性
  4. 物理的存在と社会的手掛かり
  5. 秩序形成への欲求とメディアイデオロギーの形成

5つの軸について第二章でまとめられているので、ネットワークコミュニケーション研究の情報整理としてとても役立つ。僕の関心として特に5つ目の「秩序」や「メディアイデオロギー」の形成をいつか取り扱ってみたいと思っているので下記に抜粋しておく。

本書では、このようなコミュニケーション実践により構成される意味体系を、Gershon(2010)に倣い「メディアイデオロギー」と呼ぶことにしたい。Gershonは、「あるメディアがいかにコミュニケーションを行い、構造化するかについての信念」(2010: 3)を「メディアイデオロギー」と規定する。オンラインの世界は、ヴァーチャルであり、アルゴリズムの世界であるがゆえに、オフライン世界よりも変化は激しく、メディアイデオロギーは固定したものではなく、人々の文化的実践の中で、不断に交渉され、更新されていく。

P32

Gershon, I., 2010, “The Breakup 2.0: Disconnecting over New Media”, Cornell University Press.

匿名性が高く、没個人的とも言われるが、「SNSマーケティング」と括られるように、「如何に人びとの関心を集め、フォローワーを増やしたり、商品を売り込むか」をかなり意図的に実践している人びとを多く知っている。かくいう僕もメディアを運営する上で意識もしている。

離散性が早いとは言え、オンラインだけにとどまらず、オフラインとの有機的つながりを持って活動を行い、特定の関心を持った人びととの関係性を構築し、仕事を得ることは一部では日常的・常識的感覚として行われてもいる。個人的にはこうしたオフライン/オンラインの重層的関係性を持ったものを研究するには、このハイブリッドエスノグラフィ的視点を持つことが有効だと考えている。

おわりに―メディアディスコース研究に向けて

第一部の議論を下に実践される研究(①日米デジタルネイティブの比較調査②モバイル機器利用から見るデジタルデバイド調査③日本最大のニュースサイトのコメントというビッグデータを用いたオンラインエスノグラフィー)は第二部で展開されているが、ここではその内容を割愛する。

今後のメディアディスコース研究に向けて重要な論点とアプローチを端的に示してくれていると強く感じたが、 「ハイブリッド・エスノグラフィが有用だ」と口でいうほど簡単ではないとも感じている。「質的」「量的」研究の議論を抑えた上で、ある意味では広い知識・経験・技術が必要なのであり、主に質的で地道な資料調査を行おうとしてきた自分にとってはまだまだ学ぶべきことや課題も多い…

しかし、やはりメディア環境で構築されている秩序や規範意識はときにネットを飛び越し、社会的な議論をも呼ぶ(2016年「保育園落ちた日本死ね!」や2018年「IT講師刺殺事件」はいずれも「株式会社はてな」が運営するサービスが起点に展開されていったもの)。

人によって取得する情報は異なるが、ネット空間に常駐し、日々のコミュニケーションを多大に積み重ねる人びとがいることもまた事実であるし、それらがどのように自らの生活や社会文化的背景のもとでなされているのかを見て取ることは、重要度が増してくるのではないだろうか。

ある意味では、「未開の地」と呼ばれ得るようなものはほとんどなくなってきているのであり(そもそもこの呼び方に問題があるというのが文化を書く批判的なもの)、離散性が高い、消費されがちなネットワークコミュニケーションとして表象される社会的実践を「記述、解釈、分析、対峙」することは、反省知としての人文学、とりわけ人類学的研究において重要なことのはずだ。

というわけで、大変ではあるが本書や『デジタルウィズダムの時代へ』などを参照に、勉学と研究に向けた準備を進めていければと思う。

複雑な社会文化コミュニケーションを分析する―『デジタルウィズダムの時代へ』
木村(2018)『ハイブリッド・エスノグラフィー NC研究の質的方法と実践』

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