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大学3年生までには押さえておきたい社会科学の考え方ー「方法論=認識論+リサーチ・デザイン+手法」

タイトルに「大学3年生までには押さえておきたい」なんて書きながら、筆者が『社会科学の考え方ー認識論、リサーチ・デザイン+手法』を手に取ったのは大学院1年目である。もし過去の自分に向けて一冊送るなら、まずこの書籍をベスト5の一冊には選ぶに違いない…

ゼミや研究室に所属し、卒業論文執筆に向けた準備を進める上で非常に参考になるはずだ。

基本データと目次

基本データ著者:野村康
出版:名古屋大学出版会
発行年:2017年5月27日

目次はじめに
第Ⅰ部 社会科学の認識論

第1章 認 識 論

1.1 存在論の2つの立場 —— 基礎づけ主義と反基礎づけ主義
1.2 認識論のパラダイム —— 実証主義・批判的実在論・解釈主義
1.3 むすび

第Ⅱ部 社会科学のリサーチ・デザイン

第2章 事例研究

2.1 事例研究とは —— 定義と特性
2.2 単一事例の選び方 —— 3つの基準
2.3 複数事例の選び方 —— 比較の論理
2.4 構成要素 —— 問いと分析単位
2.5 一般化・理論的貢献・過程追跡 —— 事例研究の論点
2.6 むすび

第3章 実 験

3.1 実験とは —— 定義・要点・「無作為割り当て」
3.2 種 類 —— 実験室実験・フィールド実験と準実験
3.3 妥当性と問題点 —— 実験における配慮事項
3.4 分析と方法論的位置づけ —— アプローチと認識論
3.5 むすび

第4章 横断的・縦断的研究

4.1 横断的研究とは —— 定義・特性・方法論的位置づけ
4.2 縦断的研究とは —— 定義・類型・特性と方法論的位置づけ
4.3 標本抽出(サンプリング)—— 確率的/非確率的抽出とその論点

第Ⅲ部 社会科学の手法

第5章 インタビュー

5.1 概 要 —— 類型(構造化・半構造化・非構造化)と認識論
5.2 個別インタビュー(1) 基本的な考え方
5.3 個別インタビュー(2) オーラル&ライフ・ヒストリー
5.4 集団に対して行うインタビュー —— フォーカス・グループ

第6章 エスノグラフィー/参与観察

6.1 概 要 —— 定義・経緯・特性・認識論
6.2 手順/技法 —— アクセス・類型・書き方・再帰性・厚い記述
6.3 その他の注意点

第7章 調査票調査

7.1 概 要 —— 要点・注意点・認識論
7.2 進め方 —— 調査票の作成・調査の実施・データの処理
7.3 データの分析 —— 集計表と解析

第8章 言説分析

8.1 概 要 —— 定義と要点
8.2 類型と方法論的位置づけ —— 認識論とリサーチ・デザイン
8.3 批判的言説分析 —— フェアクラフを中心に
8.4 解釈主義系の言説分析 —— 研究例を踏まえて
8.5 むすび

第Ⅳ部 社会科学のルール

第9章 研究倫理と参照の方法

9.1 研究倫理
9.2 参照の方法 —— 概要
9.3 ハーバード方式(括弧参照方式)
9.4 脚注方式
9.5 むすび

おわりに
あとがき
索 引

『社会科学の考え方ー認識論、リサーチ・デザイン、手法』の概要

「社会科学」を紹介する書籍は多々あるが、本書の特徴は社会「科学(Science)」というよりも、「社会研究(Social Studies)1)本書では「社会諸学」と表記されているが、本記事では社会研究として表記した。として、研究における基本的な方法論を整理してくれている。

つまり、多くの書籍は「科学」としての研究を前提に「社会科学」を紹介しているが、本書では経験的研究(empirical research)に焦点を当てている

「認識論」と呼ばれる、社会研究の考え方には複数の立場があることを前提に、社会研究分野全体をまたいでいる「方法論」を整理・解説してくれる。

ここでいう「方法論(methodology )」とは「認識論+リサーチ・デザイン+手法」のことであり、社会研究では認識論的立場の違いに沿って、手法やリサーチ・デザインを活用することで、研究を行う上での理論的な整理を行う。

「手法(method)」とは、インタビューといったデータ収集法やデータ分析のテクニックを指す。一方、「リサーチ・デザイン」とは、「研究の問い(リサーチ・クエスチョン)に対する答え導き出すために、(複数の)手法を方向付けて、得られる知見を一般化する道筋を示し、研究を論理的に形作るもの」となる。

つまり、「方法論=認識論+リサーチ・デザイン+手法」は社会研究を行う上で、研究の問いのタイプや、各ディシプリンにおける理論の選択ともつながっており、研究を論理的に展開し、妥当なものとして精錬化するためにも、また異なる研究領域がどのような「方法論」に基づいて展開されているのかを把握するためにも、「社会科学の考え方」を知ることは非常に重要となるわけなのである。

本書では、「認識論」「リサーチ・デザイン」「手法」と「社会科学のルール」としての「研究倫理と参照の方法」の、全9章から構成されていて、「方法論」は以下の枠組みから紹介してくれる。

社会科学の方法論

存在論:基礎づけ主義/反基礎づけ主義
認識論:実証主義/解釈主義/批判的実在論
リサーチ・デザイン:事例研究/実験/横断的・縦断的研究
手法:インタビュー/エスノグラフィー・参与観察/調査票調査/言説分析

このようにまとめていくと、方法論とはより厳密には、以下のロジカルな関係性をつむぐものとなる。

存在論ー認識論ー研究の問いーリサーチ・デザインー理論ー手法

第Ⅰ部 社会科学の認識論

第1章 認識論

1.1 存在論の2つの立場 —— 基礎づけ主義と反基礎づけ主義
1.2 認識論のパラダイム —— 実証主義・批判的実在論・解釈主義
1.3 むすび

第Ⅱ部 社会科学のリサーチ・デザイン

第2章 事例研究

2.1 事例研究とは —— 定義と特性
2.2 単一事例の選び方 —— 3つの基準
2.3 複数事例の選び方 —— 比較の論理
2.4 構成要素 —— 問いと分析単位
2.5 一般化・理論的貢献・過程追跡 —— 事例研究の論点
2.6 むすび

Box 2.1 歴史研究と事例研究

第3章 実験

3.1 実験とは —— 定義・要点・「無作為割り当て」
3.2 種 類 —— 実験室実験・フィールド実験と準実験
3.3 妥当性と問題点 —— 実験における配慮事項
3.4 分析と方法論的位置づけ —— アプローチと認識論
3.5 むすび

Box 3.1 自然実験
Box 3.2 妥当性
Box 3.3 ホーソン効果とピグマリオン効果
Box 3.4 アクション・リサーチ

第4章 横断的・縦断的研究

4.1 横断的研究とは —— 定義・特性・方法論的位置づけ
4.2 縦断的研究とは —— 定義・類型・特性と方法論的位置づけ
4.3 標本抽出(サンプリング)—— 確率的/非確率的抽出とその論点

Box 4.1 歴史研究と横断的/縦断的研究
Box 4.2 非確率的抽出の限界

第Ⅲ部 社会科学の手法

第5章 インタビュー

5.1 概 要 —— 類型(構造化・半構造化・非構造化)と認識論
5.2 個別インタビュー(1) 基本的な考え方
5.3 個別インタビュー(2) オーラル&ライフ・ヒストリー
5.4 集団に対して行うインタビュー —— フォーカス・グループ

Box 5.1 民俗学における半構造化・非構造化インタビュー

第6章 エスノグラフィー/参与観察

6.1 概 要 —— 定義・経緯・特性・認識論
6.2 手順/技法 —— アクセス・類型・書き方・再帰性・厚い記述
6.3 その他の注意点

Box 6.1 歴史研究とエスノグラフィー

第7章 調査票調査

7.1 概 要 —— 要点・注意点・認識論
7.2 進め方 —— 調査票の作成・調査の実施・データの処理
7.3 データの分析 —— 集計表と解析

Box 7.1 キャリー・オーバー効果
Box 7.2 インターネットと調査
Box 7.3 選挙の当確速報

第8章 言説分析

8.1 概 要 —— 定義と要点
8.2 類型と方法論的位置づけ —— 認識論とリサーチ・デザイン
8.3 批判的言説分析 —— フェアクラフを中心に
8.4 解釈主義系の言説分析 —— 研究例を踏まえて
8.5 むすび

Box 8.1 歴史研究・縦断的研究と言説分析

第Ⅳ部 社会科学のルール

第9章 研究倫理と参照の方法

9.1 研究倫理
9.2 参照の方法 —— 概要
9.3 ハーバード方式(括弧参照方式)
9.4 脚注方式
9.5 むすび

Box 9.1 修士論文を書く
Box 9.2 博士論文を書く(1)
Box 9.3 博士論文を書く(2)

おわりに―建設的な議論のための方法論の理解

本書で紹介されている「方法論」は、あくまでも多元化した認識論的立場を踏まえて、オルタナティブな社会研究のあり方を整理するためになされている。

認識論はいわば論者の「皮膚」のようなもので、そう簡単に替えられるものではないが、長い研究期間を経て変容することもあると筆者の意見が「おわりに」で述べられている。

個々の研究に「得意・不得意」があるように、統一的な「方法論」を確立することが極めて難しい社会研究の領域だからこそ、過去に蓄積された方法論を踏まえて研究を行うことが重要なのは言うまでもないだろう。

存在論や認識論は、あくまでも理念的なもので、実際は論者によってグラデーションがあるだろうし、「理念型」を押さえておくことによって「ズレ」を意識・説明することもできる

本書はイギリスで社会研究のトレーニングを積んだことを日本の文脈に置き換えることも意図されて出版されたようだ。アメリカでは「実証主義」が支配的なことを踏まえると、多元的な認識論的立場を横断的に理解することは、研究をより俯瞰的に見て取り、また建設的な議論を行う上でもとても重要なことと思う。

言わずもがな、本サイトでは「テクスト」や「ディスコース」を中心にした社会研究を行なっていることもあり、強い実証主義的な考え方は基本的にしていない。しかし、自身のテーマや問いに応じて研究はなされるべきだと考えており、一元的な立場を誇示することは、自身のまなざしを狭める要因になるのではないだろうかと思うのだ。

研究における、より良いコミュニケーションのためにも、「社会科学の考え方」を押さえておくのはとても重要だろう。できれば柔軟な考えを整理できる「大学3年生」のうちに少しでも触れておいてもらいたい内容だ。

おすすめである!

注釈・参考文献   [ + ]

1. 本書では「社会諸学」と表記されているが、本記事では社会研究として表記した。

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