そもそも「言語学」とはなにか―ことばを深めるための多様なまなざし

前々回の記事にてそもそも「ことば」とはなにかを、前回の記事ではふわっとさまざまな側面を持つ「ことば」を学ぶ意義をまとめてみたわけだが、本記事ではついに「そもそも言語学とはなにか?」ということについて突っ込んでみよう。

ここで敢えて、「突っ込んでみよう」と表現したのにはわけがある。

というのも、「言語学」と名前を付けるからには学問であるわけだから厳密に説明する必要があるのだが、どうしても自分自身の研究分野に基いて説明しようとしてしまうのだ。

僕の研究分野は「談話・言説分析」というもので、その分野を学ぶ人の書籍や論文をよく読むため、バイアスがある程度かかってしまうことを先に言わせてほしい。

だけども、広く「言語学」と呼ばれる分野にはどのようなものがあるのかをなるべく多角的にかつさらっと紹介しようと思う。

詳しくは解説しないけども、「言語学」と名のつく分野がそれぞれどのような経緯で登場したのかについて順に紹介する。

言語学とはなにか

「言語学とはなにか」を調べるに当たってまずは読むであろうWikipediaにはなんと書いてあるだろうか。

このように書いてある。

言語学(げんごがく)は、ヒトが使用する言語の構造や意味を科学的に研究する学問である。

Wikipedia:言語学

ここで注目してもらいたいのが、「ヒト」や「科学的」ということばがあることで、ここで説明されているのはいわゆる「一般言語学」「現代言語学」と呼ばれるものだ。

Wikipediaの記事でも後に説明されているように、そもそも「言語」の定義のされ方は学者によってまちまちであって、少なくとも「言語学」にとって極めて重要な「言語」の定義さえもしっかり決まっていないのは初学者や馴染みのない人には困ったものだろう。

かくいう僕もその一人だ。

これは学問が学問たろうとする上では避けては通れない現象でもあって、言語学だけじゃなく、哲学や社会学といった様々な学問においても、そもそも元となることば、ここで言えば概念の定義をすることは難しい

なぜそのようなことに陥るのかは以下の記事も参考に見てもらいたい。

「学問って何?」という疑問にズバリ回答!―高校と大学との決定的な学びの違い

さまざまな言語学へのまなざし

そもそも「言語」というものを定義するのが難しいにしても、これまでどのように「言語」の研究がなされてきたのかを見てみよう1)監修:茂木健一郎(2016)『あらゆる「学」の歴史とつながりがわかる 学問のしくみ事典』日本実業出版社

言語学の起源というと挙げられるのが古代ギリシャ時代に活躍したアリストテレスと言われており、彼が初めて言語の品詞分解を行った。

言語の研究はいわゆる「文法研究」がヨーロッパを中心になされてきたが、19世紀になるとインド地方において「サンスクリット語」が発見されたことをきっかけに「比較言語学」と呼ばれるものが登場する。

というのも、ヨーロッパで使われていた言語とサンスクリット語に対応関係が見られることが発見され、言語の規則性だけじゃなく共通性も探る動きが出てきたわけだ。

こうした異なる言語を比較することで共通性や違いを見出そうとする研究の流れは、言語の歴史的な変化や関係性を重視する「歴史言語学」とも呼ばれる分野に広がっていったが、20世紀に入ると先ほども登場した「一般言語学」というものが登場し批判を浴びせられる。

これまでの比較言語学や歴史言語学ではあくまでも具体的な証拠を重視してきたが、もっと「科学的」に「体系」だったものを「言語」として捉えて分析するべきとされるようになった。

「あくまでも『言語学』であろうとするなら、歴史じゃなくて『今』ある言語を分析しなきゃでしょ!」

という意見が広く言語学者に採用されていわゆる「現代言語学」という流れを作り出していったわけである。

現代言語学においては、科学的であるためにも言語は「音」から生まれ、文字といった「記号」になり、人が用いる言語の「記号」がどのように体系化されているのかを分析し、記述することが重要視された。

そこで、登場したのが普遍文法という考え方だ!

「人が言語を使うことができるのはみんなに共通する文法を理解する能力が脳のどこかにあるに違いない!いろんな言語の仕組みを比較して共通点を探っていけば、いずれどの言語にも共通する規則が見つかるはずだ!2)やや大げさに表現したが、普遍文法はあくまで言語獲得装置としての普遍的な機能を脳が持っているという考え方をして統語構造(語の場合分けと体系的なルール)の分析を行う。

そのような壮大な仮説をもとに始まったのが生成文法研究というわけで、これまでのところ言語学の主流と言われるのはこの分野を指す傾向にある。

ポスト現代言語学

けれども!本当に「誰しもに共通するような普遍文法」なるものが存在するかというと未だハッキリとした答えは出ていない。

生成文法に対しては膨大な研究と同時にさまざまな批判も浴びせられているわけだが、特に生成文法とハッキリ相対するのは「認知言語学」と呼ばれる分野だ。

認知言語学では言語の起源は普遍文法などではなく、「メタファーといった人の認知機能」にあるとして認知科学分野と連携しながら発展した分野だ。

その他にも、言語人類学社会言語学心理言語学といったさまざまな分野が存在していて、お互いに批判を行いながら理論のブラッシュアップがなされてきている。

そう考えると、「一般言語学」だとか「現代言語学」と名前をつけるのはちょっとずるいとは思わないだろうか?

当時はその考え方が新しく正しいものとされたのかもしれないが、必ずしもずっと正しくある理論とは限らないからだ。

「そんなあなたはどんな言語学なのか?」

と聞かれると、答えづらいのだがいわゆる社会言語学応用言語学と呼ばれる分野に属している。

その中でも「談話・言説分析」、特に批判的談話研究(Critical Discourse Studies:CDS)が主な研究分野だ。

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実はこの分野、やっぱりこれまで主流とされてきた現代言語学、よく「形式言語学」とも言われるのだが、それらとはかなり異なった言語観を持ち、純粋な言語学ではなくかなり社会学に近い研究分野でもある。

ポスト現代言語学、つまり日進月歩の研究分野において新たな、というよりもより言語を多面的なものとする言語学観が徐々に勢力を増している。

形式的な言語にとらわれすぎるのではなく、実際に用いられる「ことば」や「社会」「文化」といった価値観との関係性を捉える動き、そんなものを中心にこのサイトでは紹介していく。

僕の研究分野については「研究活動」というカテゴリーにまとめてあるので要チェック!

注釈・参考文献   [ + ]

1. 監修:茂木健一郎(2016)『あらゆる「学」の歴史とつながりがわかる 学問のしくみ事典』日本実業出版社
2. やや大げさに表現したが、普遍文法はあくまで言語獲得装置としての普遍的な機能を脳が持っているという考え方をして統語構造(語の場合分けと体系的なルール)の分析を行う。

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